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健康保険・年金の廃止へのお手本づくり…厚生年金基金の廃止決定

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120927-OYT1T01663.htm
厚生年金基金を廃止へ…積立金不足額1兆円超


 厚生労働省は27日、AIJ投資顧問の年金消失問題を受け、企業年金の一種である厚生年金基金制度を将来的に廃止する方針を固めた。

 28日に開く同省の特別対策本部の会合で本部長の辻泰弘副大臣が廃止を前提とした制度改革案の取りまとめを事務局に指示する。

 同省は、加入者の運用次第で将来受け取る年金額が変わる「確定拠出年金」を柱に、他の企業年金制度への移行など、廃止に向けた課題を検討するなどして改革案をまとめる方針だ。連鎖倒産の回避に向け、基金解散時に国に返還する積立金について、加盟する企業が共同で責任を負う連帯保証制度の廃止や連帯保証金額に上限を設けることも検討する。

 ただ、実際に廃止されるまでには早くても数年以上かかるとみられる。

 同制度を巡っては、同省の有識者会議が6月にまとめた最終報告書で廃止と存続の両論併記となっていた。だが、今年7月の調査で全国572の基金の半数にあたる286基金で、公的年金の一部を国に代わって運用する「代行部分」の積立金の不足額が計1兆1100億円に達したことなどを受け、財政立て直しは困難と判断した。
(2012年9月28日07時24分 読売新聞)

http://d.hatena.ne.jp/i-haruka/20120905/1346833260

http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20120826_4.html
 長野県建設業厚生年金基金に加入する企業が、基金の財政悪化を理由に脱退を求めた訴訟で、長野地裁が企業側の訴えを認めた。

 企業を引き留めようとした基金の方針に、待ったをかけた形だ。

 企業年金の一つである厚年基金の多くは、深刻な赤字を抱えている。加入企業の脱退が続けば基金の存在は危うくなる。

 AIJ投資顧問の年金資金消失事件で明らかになったように、厚年基金の運営には問題が多い。廃止を求める声も上がっている。

 将来予想される負担増を少なくするため、余力があるうちに自発的に厚年基金から脱退する企業が増えている。体力のある企業が脱退し、負担能力の低い企業が基金に取り残される状況も生じかねない。今回の判決は、こうした懸念を現実化させる可能性がある。


 6年前に解散した神戸市のタクシー業界の厚年基金は、積立金の不足額を加入企業で担おうとして次々に連鎖倒産に至った。

 資金運用は自己責任が原則とはいえ、従業員の老後の安心を支える厚年基金への支払いが企業の存立を脅かすようでは本末転倒だ。

 厚年基金の多くは、運用実績とはかけ離れた高い予定利率を前提に掛け金や給付を決めており、時間がたつほど赤字が拡大する仕組み上の問題も抱えている。

 これ以上放置しておけば、公的年金制度の信頼まで揺るがしかねない。厚生年金基金は廃止も含め抜本的見直しを急ぐべきだ。

[京都新聞 2012年08月26日掲載]

 厚生年金基金は、加入企業が倒産する前に廃止するのが正しい政策です。厚生年金基金は、その仕組み上、積立不足による代行割れに陥っても、基金が破綻する前に加入企業が潰れていくことになっています。つまり、「指定基金*1が法令による基準に沿った財政回復に向けての活動を行わない場合には、厚生労働大臣の命令で基金を解散させる」という条項が厚生年金保険法第179条とあります。その場合、代行割れしている積立金の不足分は差し押さえを含めて加入企業の事業主から強制的に徴収されます。もともと拠出金を払えない状態で解散の出来ない基金から強制的に取り立てれば加入企業が次々に倒産に追い込まれ、その果てに基金が破綻するというかたちになるわけです。

 こうした指定厚生年金基金を救済するには、「代行部分の積立不足はあっても、現有する年金資産をあるだけ国に返上して解散する」という実に簡単なやり方で可能です。この改革には厚生労働省の決断で実施できますが、それはとりもなおさず厚生労働省自身の過去の不作為を認めることや厚生官僚の天下り先を減らすことになるのでやりたがっていないのが現状です。しかし、役所のメンツや天下り先確保のために過酷な特別掛け金負担により倒産や廃業に追い込まれる企業が出てくる方が余程問題が大きくなると思われますので、早期の厚生労働省の勇気ある決断が待たれるところです。


 ところで、この厚生年金基金の問題から学ぶべきことは、積立方式で年金制度は運営できないということです。

 厚生年金基金は基本的には積立方式で、本体の厚生年金は賦課方式で運営されていたわけですが、今回の厚生年金基金の積立不足の問題は積立方式だからこそ持ち上がってきた問題です。ちなみに、指定基金で財政状況がかなり悪いとされる基金でも積み立て割合は40%弱ほどはあります。国の厚生年金の積立割合は16.9%です。厚生年金も積立方式ならもはや破綻の域ですが、賦課方式で将来の年金保険料につけ回しを認めているので積立不足が問題にならないわけです。

 厚生年金基金が示す積立方式の弱点は、将来の支給水準を保証するような「公的年金」として運用できないということです。厚生年金の予定利率は5.5%で、厚生年金基金は5.5%より高い利率で運用すれば基金独自の年金資産になるわけですが、2000年〜2002年までのマイナス運用、2007年のサブプライムローンや2008年のリーマンショックなど運用環境が近年不安定になり、厚生年金基金が高度経済成長期に設立された時のような運用利益の増大は見込めなくなってきています。

 つまり、積み立て方式の年金は常に経済成長するような環境で運用利回りが出れば問題はありませんが、不況が長引くなどの予想外のことが起これば、約束していた年金給付ができなくなるということです。公的年金の要は、将来の年金給付額を約束することが前提だというなら、少子高齢化においては賦課方式より積立方式の方が適した財政方式だというのは全くのウソとうことになります。


 もちろん、積立方式をそのまま「自分で積み立てた保険料を65歳から受け取る」という言葉通りに受け取り年金制度を運営するなら、加入期間運用利回りがマイナス続きであった世代においては払い込んだ保険料よりも少ない給付しか受けられないという事態を容認しなければなりません。その程度の年金なら国が年金制度を運営する必要もなく民営化した方が公務員の数も減ってメリットがあるということになります。つまり、「年金制度を積立方式で」というのは公的年金制度の解体であり、老後やその他の稼働収入の途絶により国民が貧困状態になることを防ぐという公的責任を国が放棄することを認めることに繋がるわけです。