先従隗始・温故知新

はてダからの引っ越し(http://d.hatena.ne.jpのURLからここへ自動転送されます)。元サイト:アニメイレコムhttp://kasumin7.web.fc2.com/ire/

公益性の転載

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/dot/nation/dot-2022070900025

 


「奇跡が起こってくれ、という一心でその場に」 安倍元首相の銃撃現場に駆けつけた医師が語った全て

AERA dot.2022年07月09日20時42分

 

 

「ひと目見た瞬間に、かなり厳しいなと思いました」
「医学的にはわかっていたとしても、感情的には何か奇跡が起こってくれ、という一心でその場にいました」

 言葉を絞りだすように語ったのは、安倍晋三元首相(67)が奈良市内での街頭演説中に銃殺された事件で、直後に現場に駆け付けた中岡内科クリニックの中岡伸悟院長(64)だ。事件が起きた日は、現場のすぐ近くにあるクリニックで診療にあたっていた。

 普段通り診療する中岡院長の耳に飛び込んできたのは、「安倍さんが撃たれた」という言葉。はっきりと状況がつかめないまま、現場に駆け付けた中岡院長が目にしたのは、顔面蒼白で意識のない状態の安倍元首相だった。救命活動にあたった中岡院長が取材に応じ、当時の状況を語った。

*  *  *

院長:貴重なお命を亡くされました安倍元総理、並びにご家族の方の気持ちを考えますと……。まず、冒頭にご家族および関係者の方々に心よりお悔やみを申し上げます。

――昨日、救護に駆け付けたとのことですが、どなたから呼ばれ、どのタイミングで駆けつけましたか。

診療をしていたのですが、外が騒がしいと思い、出てきますと、「安倍さんが撃たれた!」と叫んでいる方がいました。何が起こったかというのは、はっきりつかめない状況でした。こういう内科の仕事をしていますと、外に出て確かめに行くと、(叫んでいたのは)自分の知っている患者さんで、「これはただごとではない」と思い、まず現場に行くことにしました。

まず、僕が一人で先に向かいました。安倍元総理が道路上に倒れておられまして、顔色をお伺いしたところ、かなり顔面蒼白で意識もない状態でした。

僕が行った時点で、どこの看護師さんかはわかりませんが、先に来ておられた方が一生懸命、心マッサージ(心臓マッサージ)をされておられました。かなり手際よくされていましたし、訓練を受けておられる方という印象でした。

その心マッサージと看護処置をされている状況を見て、心肺停止の状態と考えられたので、僕は、まず脈や目の眼球結膜の状態などを確認しました。

――眼の状態はどういう状態でしたか。

眼球結膜は真っ白な状態で、血の気がないといいますか、かなり出血されているという印象を受けました。「銃で撃たれた」という情報で聞いていましたので、おそらく体にあたっていたとしたら、内臓および血管に損傷を及ぼすような傷を受けられて、そこからの出血が、貧血の原因かなと考えました。

――出血がすごかったとのことですが。

僕の側から見たときには血だまりなどははっきり見えませんでした。ですが、ちょうど反対側にいたうちの看護師が心マッサージをするときに膝をつくのですが、それに出血がついていたので、傾斜の関係かもしれませんが、反対側には血だまりがあったのではないかと思われます。

――傷口は確認されましたか。

確認はできていません。あおむけに倒れられていましたが、それを動かすというのはとてもできるような状況ではありませんでしたし。

今日、ある方に聞いた話では、一発目の銃声で振り返られたときに二発目の銃が当たり、首と心臓のほうに、ということを聞きました。タオルや着ておられるものをとれば確認できたかもしれませんが、とてもそんな状況ではありませんでした。かなりの人だかりもできていました。

――動かせるような状況ではなかった。

そうですね。救急車が来るのがかなり遅いとわかっていたとしても、出血の状況を考えると動かすべきではなかったと思います。

(銃創なども)全然、わかりませんでした。タオルをかけておられて、それが血で汚れていましたので、このあたりに出血の創があるのかな、という感じでした。

――タオルは誰かが出血を止めるためにかけたような感じでしたか。

僕が行ったときには、すでに心マッサージをみんな必死でしておられたので、そのところには何もしていない状況でした。

――心マッサージは何人かで変わられたのですか。

すでに1人の方が一生懸命されていまして、そのあとにうちのスタッフが2人きてくれましたので、その3人で変わり交代にするような状態でした。

――先生自身は。

僕はその状況を見て、まず患者さんの状態を把握することが大切だと思い、瞳孔の状態とか、出血の状態、今後どういうことをすべきか、ということを頭の中で考えました。かなり出血が強いという印象があったので、ここでできることにはかなり限界があると感じました。救急車が早く到着することを願って、情況を見ていました。

――安倍元首相に声はかけましたか。

僕はしていないのですが、(周りにいた)市民の方が、「安倍さん頑張って!」と声かけをされていました。ですが、もちろん反応はされていませんでしたし、僕自身も脈と一緒に爪の部分を押さえる、痛覚の感覚があるかということもチェックさせていただきました。それでも手足がぴくりともしませんでしたので、意識状態も悪いなということもわかりました。

――痛覚のチェックとはどういったことをするのですか。

爪のところをぐっと押さえるんです。普通の方だと、拒否反応が出るのですが、その感覚がなくなっていますと、何も反応は出ません。

――その後AEDを使ったとお聞きしました。

心マッサージもされていましたが、AEDをやるということで、テープを貼る動作に入っていたのですが、やはり状況が状況で、(安倍元首相が)着ておられた服も濡れていて、テープがなかなかうまく付かなったんです。最初に持ってきておられたAEDではなく、うちの診療所のAEDを持ってきてもらうようにしました。もう一度付け直したら、うまくいきました。

――付け替える作業は先生がされたのでしょうか。

それも、そこにいるみなさんが手分けしてやっていただきました。

――AEDをつけて、その後解析をすると思いますが。

自動で解析をしたのですが、えー……。ちょうどそのときに、作動している間に「離れて」という自動音声が出たので、電気ショックが始まるのかなと思ったのですが……そのすぐ後に「AEDを適応ではありません」という自動音声が流れました。

やはり、これはかなり状態が悪いというか、心停止の状態だなということの確認にもなりましたので、すぐさまそれを置いて、再度心マッサージを始めました。

――適応できないという音声が鳴るというのは、どういうことを意味するのでしょうか。

心臓が動いていないということですので、効果がないということです。

僕が一番最初に見たときの状況では、その(AED)対象にはないんじゃないかなという気はしました。実際に使用しても、反応はありませんでした。それよりは、銃ということを考えれば、大きな血管や内臓を損傷しているのではないか。そこからの出血が止まらないでどんどん出ているんじゃないか、と思いました。できるだけ大きな医療機関マンパワーのあるところで集中治療を受けることが一番肝心だと思っていました。

――心マッサージはどのくらいの時間されたのですか。

時計を持っていっていなかったですし、現場の人間としては、実際の時間よりもかなり長く感じました。実際にどれくらいの時間かというのはここではっきりと申し上げることはできません。

――時間が長く感じるなか、どういう思いでいらしたんですか。

日本国を支えてきた一国の首相の方ですので、なんとしても救命したいという思いは当然ありますので、我々医師として、首相であっても、普通の方であっても、それはみなさん一緒なんですけど、特にそういう状況でしたので、今何を一番すべきか、何かできることはないかということを必死に頭の中で考えていました。

――演説があることは知っていましたか。

全然知りませんでした。最初に患者さんが「安倍総理が撃たれた」と叫んでいるのを聞いても、あまり実感しなかったといいますか。患者さんの一人が、そういう、病状の一つとしてそういうことを言っておられるのかな、という感じもしました。でも、その状況を見ればただごとではないとすぐわかりました。それで、現場に行きました。

――現場について、倒れられている様子を見て、どう思われましたか。

ひと目見た瞬間にかなり厳しいなと思いました。やはり、まず意識レベルがまったく……。心マッサージをしても、ぴくともされていませんでしたし、手を触ってもそれに対する反応もありません。意識レベルはほとんどない状態でした。

心マッサージの途中にAEDをやるときも、自発呼吸が出ている様子もありませんでしたので、いわゆる心肺停止状態。それから、僕らは仕事柄どうしても顔色(がんしょく)というのを見るのですが、青白いというより、それを通り越して真っ白い顔になっていましたので、出血がかなりひどいということ。それから、拳銃で撃たれたということで、血管および内臓の損傷で、かなりの出血をされているということはわかりました。

眼球結膜と同様に瞳孔も見ましたが、開きかけていましたので、かなり厳しい状況だというのが第一印象でした。

――撃たれたという情報は周りから。

後ろのほうから撃たれたということや、散弾銃、筒状のものといったいろんな会話が聞こえてきたので、参考にさせていただきましたが、目の前におられる安倍元総理の状況が尋常ではない状態ということはわかりましたので、なんとか早く救急車がきて、出血を止められるような医療機関にいち早く、一刻を争うと思いましたので、なんとか早く来てほしいと思いました。

あの状況では、現場でできることは限られています。うちのクリニックも近くにあるので、管を入れて呼吸をアシストすることも考えましたが、救急車というのはかなり迅速に来てくださるので、それを取りに行って準備する間に到着するのではないかとも考え、少しでも血流がよくなるように足を上げたりしながら、救急車の到着を待ちました。

――足を上げたというのは。

内臓損傷や血管損傷をすると当然脳にも血流がいかないでしょうし、足や手の血流を体の中央に送って、大事なところを少しでも。

――救急車はすぐきましたか。

そこが、実際の時間がどれくらいというのはわからないのですが、とにかく長くは感じました。

――声かけを皆さんがされていた。

周りや遠くから「安倍さん頑張って」という声もありましたし、安倍元総理のスタッフの方ですかね、同行されている方も声掛けをされていました。

――演説中に銃で撃たれるということについては、どう思われますか。

昨日からニュースでも報じられている通り、世界のリーダーたちからも尊敬されている方ですし、実際に日本の経済を立て直していただいた方です。我々医療ができることも、日本国をいい方向に導いていただいているからこそ、我々も安心して病気に立ち向かえると私は思っています。その方を、まだまだ日本国をよくしようと高い志を持っておられたと思うので、志半ばでああいう蛮行のために命を亡くされたことは、救命に携わっていて、非常に心が痛む思いでした。医学的にはわかっていたとしても、感情的には何か奇跡が起こってくれ、という一心でその場にいました。心の中では祈るような思いでした。

医師というのは、人の命を救うことが使命ですから、どういう方であれ、まず状況を正確に把握して、最善策を立て、それを早く実行するというのが人の命を救うのに一番大事なことです。それがなかなかできない状態にあるというのは、非常にもどかしかったですし、情けないという感じもしましたし、色んなものがあれば色んなことができるのに、という思いがありました。

――搬送先の病院で死亡が確認されたと聞いたときは。

ショックは大きかったです。特にその場に立ち会わせていただいていたので、やはり安倍元総理の功績を考えて、あるいはこれから日本のためにもっとやっていただける方だと思っていましたので、こういう蛮行で命を落とされたのは、本人も悔しかったでしょうけれど、我々も残念で苦しい思いをしました。

――鎖骨下の動脈を損傷し、大量出血したことが原因だったという死因が発表されました。先生が現場で見られた状況をふまえて、いかがですか。

背後からとい聞いておりましたので、もっと大きな大動脈などが傷ついているということは思っていましたが、何かしら大きな血管、散弾銃のようなものであれば広範囲に損傷を受けますので、たとえば肝臓とか、そういうところにも損傷があって、あちこちから出血しているのかな、ということは考えていました。今死因を聞いて、納得できる部分もあります。

――これまでに、銃によるけがの治療経験はありますか。

銃はありません。自治医大出身で、へき地医療をしていましたので、いろんな事故には遭遇することはありましたが、銃はなかったと思います。

――救急車の到着後はクリニックでの診療に戻られたとのことですが、訃報をいつ聞きましたか。

患者さんの混雑が激しくて、夜8時か9時頃をまわっていたのですが、家内にどういう報道になっているか聞いたら、5時3分に亡くなったと聞きました。状況から判断すると、そのような結果になってしまったかと思いましたが、胸を締め付けられるような思いをしました。

AERA編集部/福井しほ)