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https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1095305

ワクチン接種後死亡の42歳「躊躇なくアドレナリン筋注すべきだった」

レポート2022年11月17日千葉雄登(m3.com編集部)

 

 愛知県医師会は11月17日に記者会見を開き、愛知県愛西市でBA.4・BA.5対応の新型コロナウイルスワクチン接種後に死亡した42歳女性の事例について、ワクチン接種後であり最重症のアナフィラキシーショックの可能性が強く疑われることから、「アナフィラキシーが疑われる場合は、診断に躊躇することなく、アドレナリンの筋肉注射をすべきだった」との見解を公表した。ただし、医師が呼ばれた時点でアドレナリンが投与されたとしても、最重症のアナフィラキシーショックであった場合は救命できなかった可能性が高いと考えられ、死因としては急性左心不全であったことも否定できないという。

 接種会場で対応に当たった医師について、愛知県医師会副会長の野田正治氏は「(救護室に駆け付けた医師が筋注の判断を下すとしたら)与えられていた時間は15~30秒ほどだった」との見解を示した上で、「酷ではあるが、(アドレナリン筋注を)打つべきだった」と説明。会長の柵木充明氏も「あくまで打つべきだったが、していなかった」とコメントした。報道陣からの医師個人の責任を問う質問については「どの程度の過失だったのかまでは、議論の俎上にのっていない」と述べるにとどめた。なお、会場には2本のエピペンが配備されていたという。

 「今回の事例では看護師が女性の体調変化に気づいた時点で、救護室に運ばず、その場でアドレナリンを接種できなかった体制に問題があった」と、愛西市の接種会場の体制が抱える課題についても言及した。ただし、現在の慣行では、他の会場であっても、看護師が医師に判断を仰がずにアドレナリンを筋注することは「非常に難しい」(野田氏)としている。

 

「国民の疑問に答えるには時間がかかる」

 今回の会見は、愛知県医師会の医療安全対策委員会が11月15日に死亡事例を分析した結果を発表するために開催されたもの。医療安全対策委員会は、各医会からの推薦委員に加え、救命救急やワクチン接種に関する専門家や弁護士などを交えて議論を行った。

 同委員会は愛西市の集団接種会場で対応に当たった医師から直接聞き取り調査を行ったほか、当時業務に当たっていた看護師や救急搬送先の病院の医師からの情報も得た上で検討を行った。同委員会における検証は今回の会見をもって終了となる。

 柵木氏は第8波が到来する中、ワクチン接種を加速することが求められる中で、今回の死亡事例を基に「ワクチンは怖い、打つのはやめておこうという声が出てきてもおかしくない」と指摘。本来は医療法に基づく医療事故調査委員会厚生労働省の副反応検討部会における議論を待つのが望ましいとしつつ、「一定の結論を出すには手間暇がかかり、今まさに接種しようとしている国民の疑問に答えるには時間がかかる」「本事案は何よりも審議の迅速さが求められる」と、同委員会で審議を行った背景を明かした。今回の審議結果を、ワクチン接種のさらなる安心・安全につなげたいとした。

 

病理解剖実施確認も返答なく行われず

 県医師会の検証によると、看護師は、接種後の健康観察中(14時25分頃)に女性が咳をしたために車椅子で救護室に移動させた。その際、「接種前から実は具合が悪かった」と訴えていた。女性に咳の症状が認められてから約4分後(14時29分頃)に接種業務に当たっていた医師が呼ばれ、その時には既に顔面蒼白、呼吸苦があり、血中酸素飽和度が60%に低下していた。その時点では、病態を判断する間もなく、女性は泡沫状の血痰を大量に排出し、意識レベルが低下。呼吸停止、心停止となったため、医師は直ちに心肺蘇生法を開始した。静脈確保を試みるができず、アドレナリンの静注はできなかった。

 咳の症状が認められてから17分後(14時42分頃)には救急隊が到着し、気管挿管を行うも泡沫状の血痰が多く断念。14時55分には現場で対応に当たった医師が同乗し救急搬送、15時15分に高次病院に到着した。高次病院において救命処置が行われ、8回のアドレナリンの静注が試みられたが救命できなかった。

 死亡後、病理解剖が実施されておらず、最終的な病態解明には至らなかった。カルテに記載された情報によると、救急搬送先の病院で死亡を確認後、医師が遺族に病理解剖実施の有無を確認したが、返答はなかったという。遺族が茫然自失としていたため、それ以上の確認は行わなかったとされている。

 

「基礎疾患あり」なら主治医などでの接種検討を

 同医師会理事の渡辺嘉郎氏は死亡した女性は高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群といった基礎疾患を持っているだけでなく高度の肥満であったことを踏まえ、「アナフィラキシーが起こった後の反応で、喉頭が狭く、気管挿管がしにくい、静脈を見つけにくいなど問題が起こり得る」と説明。

 集団接種会場等では緊急時の対応が困難になる可能性もあることから、「基礎疾患がある方であれば、大学病院や基幹病院に隣接した集団接種会場や主治医のもとで接種することも検討していただきたい」「接種時には主治医からの許可をいただくと思うので、そこで相談をいただくのが良いと思う」と要請した。

 考慮すべき基礎疾患の例としては心臓病、腎臓病、肝臓病、血液疾患、免疫不全、糖尿病、高血圧、がんを挙げている。

接種体制見直しのポイントを列挙

 今回の報告では、日本の集団接種会場の体制上の課題も指摘された。愛知県医師会はこの課題を解決するため、次のようなポイントを検討する必要があるとしている。

  • アナフィラキシーを疑う場合はアドレナリンを打つこと
  • エピペンは非常に高価だが、医療用のアドレナリン製剤は安価なため、あらかじめ用意しておくなど、疑わしい人には適量を筋注できる体制を整えること
  • 備品はどこにあるのかなど、接種前にみんなで確認をすること
  • 接種会場で容態が急変する事態が起きた際、指示を出すのは誰かを事前に確認しておく
  • 容態が急変した人がいた場合、集団接種会場の医療者は作業を一時中止し、役割分担をした上で緊急時対応を行うこと

 柵木氏は「厚労省にも医師会を通じて提言を上げるなど、積極的に取り組んでいきたい」と接種体制の改善を働きかけていく構えだ。また、今後、愛西市が医療事故調査委員会を立ち上げる場合には、愛知県医師会としても積極的に協力する方針を示した。

現場で対応した医師に「人殺し」と罵声も

 会見の最後に柵木氏は接種会場で救命処置を行った医師から「外出時には人殺しと罵声を浴びることがあり、クリニックの写真がネットで拡散し、あらぬことを書き込まれたり、嫌がらせを超えて身の危険を感じる」というメールが届いていることを明かし、「こうした個人攻撃、家族、職員へ嫌がらせはやめていただきたい。いわれのない理不尽な制裁を受けていることは事実だ。何卒メディアには報道等にご注意いただきたい」と強調した。