こうなる。
官僚に監督された業界の企業重役だって官僚化=民僚になっていくことが多い。東電やトヨタホンダがそう。
とうぜん、もっと距離の近い党幹部だってそうなる。
稲森のような企業経営カリスマ一人で、霞ヶ関も各党も激変メジャーアップデートしてしまうぐらいでちょうどいい。
そもそもが、長年の幕府政治を終わらせ、西欧模倣の明治政府を樹立し、機能させていった経緯もまさにそれであった。そこにかならずしも慎重さ…多数の民意だの議会民主システムは必要ない。話を聞くと言うことにはゴネ得が発生し、何も進まなくなるのは現代政治でわかるとおり。
◆大西康之『稲盛和夫・最後の闘い。JAL再生にかけた経営者人生』を読み解く
※要旨
・「誰がやっても立て直せない」と言われたJAL(日本航空)に、稲盛はたった3人の腹心を連れて飛び込んだ。
それから1155日間。
稲盛はJALに大手術を施したのだが、その事実は断片的にしか伝わっていない。
・1155日の間、稲盛はJALの会長室に「お飾り」として座っていたわけではない。
京セラを創業してから50年。
半世紀にわたる経営者人生で蓄積した知識、経験、哲学のすべてを動員し、
経営破綻で自信を喪失した3万2000人のエリート集団に「生きる力」を植えつけた。
それは宗教的なものではなく、伝票の書き方、会議の進め方といった細かい仕事の作法の積み重ねであった。
・大雑把な中期計画しか持たなかった会社が、部門別で日ごとの収支を管理するようになり、
「自分は今日、会社の利益に貢献したのか、それとも赤字を作ってしまったのか」が、
一目でわかるようになった。
稲盛が編み出した「アメーバ経営」の威力である。
・JALの幹部は本物の官僚より官僚的で、お金を稼ぐことよりも社内調整や政府との交渉にいそしむことが、
仕事と考える人々が経営層を支配してきた。
「計画は一流、言い訳は超一流」といわれていた。
・稲盛が持つカリスマ性も、世間の誤解を招いた要因の1つだろう。
「航空業界の素人で、全くの無知だった」という稲盛が、JALに乗り込むときに携えていったのは、
フィロソフィと部門別採算制度のアメーバ経営の2つだけだった。
管理会計の一種であるアメーバ経営は、トヨタ自動車のカンバン方式やGEのジャック・ウェルチが、
唱えた「シックスシグマ」などに近い経営科学である。
・JALに乗り込んだ当初、稲盛は土日も出社して朝9時から夕方6時まで100人を超えるJALの
すべての子会社の社長と1時間ずつ、延べ100時間超の面談をこなした。
昼食をとる時間がないと、コンビニのおにぎりを食べた。
80歳にならんとする稲盛が見せた凄まじい闘魂は、3万2千人の社員を奮い立たせた。
・稲盛の幹部へのリーダー教育も終盤に差し掛かったある日。
池田は相変わらず冷めた気持ちで稲盛の話を聞いていたが、稲盛が発した一言が妙に耳に残った。
「全社員が本気にならなければ、再建はできませんよ」
・アメーバ経営では、リーダーに「自分のアメーバ(小集団)の数字は、すみずみまで把握しろ」と教える。
稲盛の言う「全員参加の経営」ができれば、JALは復活するのではと、池田は思えてきた。
・稲盛は幹部への挨拶でこう述べた。
「会社の経営の目的はなんでしょう。
利益を上げる、顧客に良いサービスを届ける。
いろいろあるでしょうが、私は経営の一番の目的は社員の幸福の追求にあると思います」
・稲盛が経営の要と考える月に1回の会議がある。
業績報告会。
約30人の役員が1人ずつ、その月の予定数値、それに対する実績、翌月の見通しを説明する。
報告を聞きながら、稲盛は細かい数字がビッシリと書き込まれたA3の用紙をなめるようにして読み、
次から次へと質問を繰り返す。
運航本部長であった植木(現社長)もやり玉にあげられた。稲盛「パイロットが使うヘッドセットの修理代が増えとるな。なんでや」
「・・・・・」
植木は答えられなかった。
稲盛「それでよく1400人のパイロットを束ねられるな」
・毎月、稲盛の手元に集まるA3の紙は80から100枚にもなる。
それを81歳とは思えない集中力で読み込み、
他の役員が見逃すような「ほころび」を見つけ出す。
・稲盛に修辞を禁じられたJALの役員たちは、会議の前に入念に情報武装するようになった。
毎月、業績報告会の前になると役員は部長に、部長は課長に、課長は課員に、事細かな説明を求める。
おのずと全員が現場の事情に精通していった。
修辞が禁じられたことで、役員室に閉じこもっていた彼らは知らず知らずのうちに現場に下りていった。
・無味乾燥な数字の羅列から稲盛は声なき声を聞き、その背後にあるストーリーを読み解いていく。
「細部をみなければ会社は見えてこない」
50年の経営歴でたどり着いた境地である。
・リーダー教育で稲盛は役員たちにこう教えていた。
「問題が起きたら、部下任せにせず、自分が動け。
自分で決めて、自分でしゃべれ。
その姿を見て部下が育つ。それがリーダーだ」