先従隗始・温故知新

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ウクライナの視察レポート

http://yokohama-konan.info/ukraine.html
[1]非常事態省チェルノブイリ立入禁止区域管理庁 ホローシャ長官
・90年代に入ってから土壌の汚染密度を基準に移住等を判断することになった。これは詳細な放射線量率測定を行う機材不足もあり、事故直後から作成されてきたセシウムの土壌の放射線濃度マップによって決めたが結果的には、極めてコンサバティブで、避難移住地域を過大に広げてしまったという点で誤りだった。避難移住は線量率を基準にすべきである。農作物の危険性については別途土壌の汚染密度により判断すればよいが、地方によっては農業が人々の生計のみならず食糧供給も支えていることも多い。
・政府の住民に対するコミュニケーションの失敗により、住民は放射線恐怖症に陥った。これが住民に与えたストレスは大きく、国民の人気取りを狙う人々に翻弄されることになった。住民にじっくり説明すべきであるが、住民は遠くに住んでいる者の説明を信用しない傾向があるので、まず理解のある地元関係者の協力を得る必要がある。
ウクライナが食品中の放射能基準値を低く抑えているのは、森の産物など、国民が汚染された食べ物を口にしやすい環境にあるためである。
・事故直後は混乱の中で、住民の被ばく線量を正しく評価することが困難であったが、がん及びがん以外の様々な疾病の増加を見ると、被ばく線量が過小評価されている可能性もある。
・(移住の基準についてはどうあるべきか、と問うたところ)、生涯35レム(350ミリシーベルト)を生涯70年間と仮定して年平均にならすと5ミリシーベルトが一つの目安であり、チェルノブイリではこのような考え方に立っている。ただし、これはあくまで平均ということであって、スタートは5ミリシーベルトより高くなるであろう。


[4]放射線医学研究センター プリジャジニク・がん疫学研究室長
・がんに関する限り、年間20ミリシーベルトという日本の避難基準は、妥当なものと考える。
チェルノブイリで小児甲状腺がんの増加が確認されたのは事故後4年後経った1990年であり、福島においてもヨウ素を多く被ばくした子どもたちの健康管理には十分注意を要するべきである。


[5]ステパノワ・放射線医学研究センター放射線小児・先天・遺伝研究室長
チェルノブイリ事故後の影響については、専門家間のコンセンサスが得られている点、専門家の間でも正反対といっていい程の見解の相違がある点がある。その意味では、よく分かっていない部分も多い。
・自分としては、これまで5万人の子どもを検診してきた経験を通じて、国際的にもコンセンサスが得られている甲状腺がん以外にも、事故は子どもたちの健康全般に影響を与えていると考えている。特に、呼吸器系、消化器系、心臓血管系、免疫系等への影響であるが、当初は病気でないレベルの変化が起こり、2〜3年後に病気に移行する例を多く見てきた。
・高いレベルの放射性ヨウ素にさらされた子どもたちはハイリスクであると考えられ、長期の健康観察が必要である。我々の調査においても、事故当初に被ばくした18歳以下の子どもたちにおける甲状腺がんの患者数は減少しているが、新しく発症する者も一定数いる。そのため、長期継続的な健康観察が必要である。ウクライナでは、登録制による健康管理を行っており、半年に1回検診を実施している。また年2回の長期休暇に保養地に送る等の措置を行ってきた。
チェルノブイリ事故時に母親の胎内で被ばくした子どもたちでは、成長障害、リンパ球の染色体異常、免疫障害、甲状腺機能障害等の悪影響が見られ、また、汚染地域に残った子どもたちの全身的な健康状態は良くない。
・クリーンな食品を子どもたちに食べさせることで生涯の被ばくをかなり抑制できる。また、がん以外の病気の影響を調べるために、大規模な疫学的追跡調査が必要。


[6]ウクライナ科学アカデミー数理機械システム研究所 ジェレズニャク・環境モデル研究部長
・食品の基準については、地域ごとの特性に応じて考えるべきである。ストロンチウムセシウムは20年たった今でも土壌から食物への移行が見られる。


[8]ウクライナ医学アカデミー衛生・医学生態研究所 ティムチェンコ・遺伝・疫学研究室長
・口唇裂(兎唇)、自然流産、不妊等について、台帳を作って追いかけてきたが、汚染地域において先天的奇形の子どもが生まれる確率は非汚染地域の1.5倍あることがわかった。原因としては、低線量の放射線影響以外に、喫煙や化学物質が考えられ、さらなる見極めが必要である。
放射線の影響を受けた子どもはできるだけ良い環境で暮らせるような配慮が必要である。2ミリシーベルトならよいとか1ミリシーベルトならよいというものではない。

[9]ナロージチ町長、地区病院長等地区関係者
・事故直後は、子どもたちには給食として3食とも地域外から調達した食料を与えた。現在、子どもは検診で体内セシウム量が基準値を超えると、日常ためている食料品のチェックが行われることとなっている。
・子どもたちは年2回の長期休暇(夏季3ヶ月、冬季1ヶ月)の際に学校単位で保養地に送られた。(現在は年1回に減り、参加者は約半数程度)。
・毎年検診を受けさせているが、この地域の子どもには、免疫力の低下、甲状腺障害、消化器系障害等が多く見られる。大人も心臓疾患をはじめ健康不調を訴えるものが多い。


 ◇


参考 木村真三・獨協医科大学准教授の提言

木村准教授は、チェルノブイリ原発隣接地にあたるナロージチ地区でフィールド調査を続けてきていることから、今回のウクライナ出張でも現地に同行いただいた。また、同准教授は、福島においても事故後、地元自治体、住民、研究者と連携して独自に放射線汚染マップの作成や、地域でも除染活動を持ししており、このような経験を踏まえ、同准教授から以下の提案があった。
【提案その1】

放射線弱者である子どもたちの健康維持のため汚染されていない食品供給を行う。学校給食に関しては、文科省独自の基準値を導入し、食の安全を維持する。
ナロージチでは、事故当初の数年間は1日3食分の給食が子どもたちに振る舞われたことから日本でも同様の処置が望ましい。
また、全国の給食センターに食品汚染計を導入することが望ましい。
【提案その2】

チェルノブイリでは、甲状腺がんの上昇が始まったのが事故後4年経ってからである。チェルノブイリ汚染地域は、元来ヨウ素の乏しい地域であるため、放射性ヨウ素甲状腺に取込まれ易かった。従って、一概には比較できないものの、日本でも甲状腺がんが上昇するかも知れない。また、ナロージチでは1人当たり2つ以上の病気を持つことが報告されていることから、日本でも多くの疾病に悩まされることになるかも知れない。
そこで、内部被ばくの調査および対応策を検討するためにチェルノブイリでの詳細な調査を早急に行う必要がある。
【提案その3】

・避難地域の指定
年間被ばく線量(屋外8時間、屋内16時間として)5ミリシーベルト
・除染
毎時2〜3マイクロシーベルト程度の住居地は除染可能
ただし、町内会レベルで全体に広く行う
・除染後の汚染物の仮置き場について
最少単位(町内会や集落)で仮置き場を決める



ウクライナ出張報告
平成23年11月2日
文部科学副大臣
森ゆうこ


2. 随行


行松泰弘
科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(原子力災害対策支援本部兼務)
永田充
科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室放射線安全企画官(原子力災害対策支援本部兼務)(医師)
吉田光
副大臣秘書官事務取扱
後藤孝也
放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター 被ばく医療部主任研究員(医師)


なお、17日夕刻から木村真三・獨協医科大学准教授が同行した。